大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌地方裁判所小樽支部 昭和53年(ワ)46号 判決

主文

一  甲事件被告岩城松吉は甲事件原告寺前音次郎に対し、金一二一万円及びこれに対する昭和五〇年一一月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  同原告寺前音次郎のその余の請求を棄却する。

三  乙事件原告岩城松吉の請求はいずれもこれを棄却する。

四  訴訟費用は甲事件原告寺前音次郎と同被告岩城松吉との間においては、同原告寺前音次郎に生じた費用の二分の一を同被告岩城松吉の負担とし、その余は各自の負担とし、乙事件原告岩城松吉と同被告三名との間においては、全部同原告岩城松吉の負担とする。

五  この判決は、甲事件原告寺前音次郎勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  甲事件原告寺前音次郎(以下「原告寺前」という。)

1  被告岩城松吉は原告寺前に対し金二四四万三九三〇円及びこれに対する昭和五〇年一一月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告岩城松吉の負担とする。

3  仮執行の宣言

二  甲事件被告、乙事件原告岩城松吉(以下「被告岩城」という。)

1  甲事件

(一) 原告寺前の請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は原告寺前の負担とする。

2  乙事件

(一) 被告柏谷朝夫、同株式会社板急、同妻倉暁は被告岩城に対し、各自金一一二五万四一六五円及び内金一〇九五万四一六五円に対する昭和五〇年一一月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 訴訟費用は右被告三名の負担とする。

(三) (一)項につき仮執行の宣言。

三  乙事件被告柏谷朝夫(以下「被告柏谷」という。)、同株式会社板急(以下「被告板急」という。、同妻倉暁(以下「被告妻倉」という。)

1  被告岩城の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告岩城の負担とする。

第二甲事件当事者の主張

一  原告寺前の請求原因

1  事故の発生

原告寺前は、次の交通事故(以下「本件事故」という。)によつて傷害を受けた。

(一) 発生日時 昭和五〇年一一月二〇日午後八時一五分ころ

(二) 発生場所 茅部郡森町字本茅部町番外地先国道五号線上(以下「本件事故現場」という。)

(三) 関係車両及び運転者等

(1) 被告岩城運転の普通貨物自動車(札四四な二八七七号、以下「岩城車」という。)

(2) 被告柏谷運転の普通貨物自動車(札一一す二一七六号、以下「柏谷車」という。)

(四) 事故の態様 被告岩城は、岩城車を運転して本件事故現場付近道路上を函館市方面から小樽市方面に向けて進行中、反対方向に向けて対進中の柏谷車の前部に衝突した。

(五) 結果

(1) 右衝突により、柏谷車に同乗していた原告寺前は、頸椎鞭打ち損傷、頭部擦傷、右足部打撲傷の傷害を負つた。

(2) このため、原告寺前は、昭和五〇年一一月二〇日から同月二六日まで七日間森町国民健康保険病院で、また同年一二月二日から昭和五一年三月二五日まで一一五日間渋谷整骨院でそれぞれ入院加療(合計一二二日)を受け、さらに同月二六日から同年五月三一日まで通院加療(実治療日数三六日)を受けた。

2  責任原因

被告岩城は、本件事故当時、岩城車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであり、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条による責任がある。

3  損害

原告寺前は本件事故によつて、次の損害を受けた。

(一) 治療関係費 金三〇万五〇〇〇円

(1) 付添看護料 金二四万四〇〇〇円

森町国民健康保険病院入院七日間及び渋谷整骨院入院一一五日間の合計一二二日間原告寺前の家族が付き添つたが、一日当り二〇〇〇円が相当である。

(2) 入院諸雑費 金六万一〇〇〇円

右入院期間中、一日当り五〇〇円が相当であり、六万一〇〇〇円となる。

(二) 休業損害 金一五三万八九三〇円

原告寺前は、本件事故による負傷のため、事故直後から昭和五一年五月三一日まで一九四日間休業を余儀なくされ、その間の得べかりし営業利益金一五三万八九三〇円を失つた。

なお、原告寺前は、本件当時年齢六二歳で青果物卸売商を営んでいた。

(三) 慰謝料 金六〇万円

原告寺前は、前記の入院、通院期間中、甚大な精神的苦痛を受け、現在もなお従前のように正常な稼働をすることができない状態にあり、慰謝料は金六〇万円が相当である。

4  よつて、原告寺前は被告岩城に対し、金二四四万三九三〇円及びこれに対する本件事故の日である昭和五〇年一一月二〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告岩城の請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)ないし(四)の事実は認める。

(二)  同1(五)のうち、原告寺前が柏谷車に同乗していたこと、原告寺前が森町国民健康保険病院に入院したことは認め、その余の事実は不知。

2  同2のうち、被告岩城が本件事故当時岩城車を所有し、自己のため運行の用に供していたことは認め、責任は争う。

3  同3の事実は不知。

4  同4の主張は争う。

三  被告岩城の抗弁

1  自賠法三条但書の免責

(一) 本件事故は、後記第三の乙事件被告岩城の請求原因1(四)記載のとおり、被告妻倉運転の大型貨物自動車(練一一か一一二三号、以下「妻倉車」という。)が本件事故現場付近において、中央線を越えて走行していたため、同車のバックミラーを岩城車の荷台の荷物ロープに引掛ける接触事故を起こし、さに、柏谷車が先行車である妻倉車との追突を防ぐため右側にハンドルを切り、中央線を越えて対向車線に飛び出したことによるものであつて、被告妻倉の左側部分通行遵守義務違反の過失と被告柏谷の安全な車間距離不保持の過失又は前方注視義務違反の過失によるものである。

(二) 被告岩城には、何ら過失はなく、岩城車の運行に関し何ら注意義務を怠らなかつた

(三) 岩城車には、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

2  過失相殺

(一) 仮に、本件事故原因が、岩城車が妻倉車と接触してハンドルをとられ、対向車線に進入し、妻倉車の後方約五〇メートルの地点を走行していた柏谷車と衝突したとするならば、柏谷車は、岩城車と妻倉車との接触事故を発見次第急停止して二重衝突を防ぎ得たはずであり、被告柏谷には前方注視義務を怠つて、右接触事故を看過した過失、若しくは接触事故を発見しながら漫然運行を継続して本件を惹起した過失がある。

(二) 原告寺前は、柏谷車に同乗していたものであり、同人の損害につき被告柏谷の過失に基づく相当額の過失相殺がなされるべきである。

四  原告寺前の抗弁に対する認否

1(一)  抗弁1(一)のうち、妻倉車が中央線を越えて走行したこと、柏谷車が中央線を越えて対向車線に飛び出したこと、被告妻倉及び被告柏谷に過失があることは否認し、岩城車が妻倉車と接触事故を起こしたことは認める。

(二)  同1(二)の事実は否認する。

2  同2の主張は争う。

第三乙事件当事者の主張

一  被告岩城の請求原因

1  事故の発生

被告岩城は、本件事故により、傷害及び物的損害を受けた。

(一) 発生日時 昭和五〇年一一月二〇日午後八時一五分ころ

(二) 発生場所 本件事故現場

(三) 関係車両及び運転者等

(1) 被告岩城運転の岩城車

(2) 被告妻倉運転の妻倉車

(3) 被告柏谷運転の柏谷車

(四) 事故の態様

被告妻倉は、岩内町方面から森町方面に向つて妻倉車を運転していたが、本件事故現場付近を中央線を越えて走行していたため、自車のバックミラーを反対方向から来た岩城車荷台の荷物ロープに引掛けた。右接触事故により、妻倉車及び岩城車は急ブレーキをかけたが、妻倉車の直後を走つていた柏谷車が妻倉車との追突を防ぐため右側にハンドルを切り、中央線を越えて対向車線に飛び出したため、柏谷車と岩城車が正面衝突した。

(五) 結果

被告岩城は、右事故により、骨盤骨折、左第三ないし第九助骨骨折、左尺骨偽関節、左血気胸、外傷性脳循環不全、頭部外傷、大後頭神経痛、内耳性めまい等の傷害を受け、次のとおり入通院した。

(1) 森町国民健康保険病院に昭和五〇年一一月二〇日から同年一二月二〇日まで三一日間入院

(2) 社会福祉法人北海道社会事業協会岩内病院に同年同月二二日から昭和五一年五月一八日まで一四九日間入院、翌五月一九日から昭和五三年九月三〇日まで五二一日間通院

(3) 中村脳神経外科病院に昭和五一年六月三〇日から昭和五三年九月三〇日まで四六日間通院

(4) 前田診療所に昭和五一年八月二一日から昭和五二年四月二五日まで六七日間通院

2  責任

(一) 被告妻倉は、左側部分の通行遵守義務を怠つた過失により、岩城車と接触事故を起こしたものであり、これがため岩城車と柏谷車との衝突事故が発生したものであるから、民法七〇九条による責任がある。

(二) 被告柏谷は、先行車である妻倉車との間に安全な車間距離を保たずに走行していた過失、又は安全な車間距離を保つていて接触事故現場の手前で急停止できたにも拘らず、前方注視を怠つて安易に事故現場を迂回できると判断し漫然と対向車線に侵入した過失によつて、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条による責任がある、

(三)(1) 被告板急は妻倉車を所有し、事故のため運行の用に供していた。

(2) また、被告板急は、その事業のため被告妻倉を使用する者であり、本件事故は、被用者である被告妻倉が被告板急の事業の執行につき前記過失によつて発生させたものである。

(3) よつて、被告板急は、自賠法三条及び民法七一五条一項による責任がある。

3  損害

(一) 医療関係費

(1) 治療費 金二〇〇万七五三四円

(イ) 森町国民健康保険病院 金四二万一六七〇円

(ロ) 岩内病院 金一〇四万七三九四円

(ハ) 中村脳神経外科病院 金四〇万一五三〇円

(ニ) 前田診療所 金一三万六九四〇円

(2) 入院雑費 金九万円

入院一日当り五〇〇円として一八〇日分

(3) 付添料 金九万一〇〇〇円

被告岩城は、入院中山内栄子に付添を依頼し、その謝礼として九万一〇〇〇円を支払つた。

(4) 通院交通費等 金一五万五三〇〇円

(イ) 中村脳神経外科病院への通院のため、往復汽車賃一九二〇円(往路は急行を利用)、往復タクシー代八六〇円の四六回分、計一二万七八八〇円

(ロ) 前田診療所への通院のため、往復バス代二六〇円の六七回分、計一万七四二〇円

(ハ) 森町国民健康保険病院から岩内病院に転院する際の乗用車の運賃一万円

(二) 休業損害 金六八六万六六六六円

被告岩城は、本件事故当時、漁業青山武夫に雇用されていて、貨物自動車の運転手として月額二〇万円の賃金を得ていたものであり、従つて、昭和五〇年一一月二一日から昭和五三年九月三〇日まで三四か月と一〇日分の休業損害は、六八六万六六六六円である。

(三) 慰謝料 金一五〇万八〇〇〇円

(四) 物的損害

(1) 車両代金 金一四四万一七六五円

被告岩城は、昭和五〇年五月に岩城車を一四〇万〇七六五円で購入し、荷台に価格四万一〇〇〇円の幌を取付けていたが、本件事故で全部使用不能となつた。

(2) 積荷代金 金二九万六〇〇〇円

岩城車には、鱈釣の延縄一八〇枚が積まれていたが、本件事故により一部は海中へ転落し、残余の分もガラス等が突き刺さつて使用不能になつたため、荷主より右金額の賠償請求を受けている。

(3) 砂まき費用 金一万〇九〇〇円

被告岩城は、本件事故により流出した油によるスリップ事故を防ぐために八トントラック二台分の砂を路上にまくことを余儀なくされ、右金額を支出した。

(4) 岩城車解体費用 金五万円

(5) 柏谷車解体費用 金三万五〇〇〇円

被告岩城は、柏谷車を解体した訴外木村自動車工業株式会社からその費用を請求され、その支払に応じざるを得ず、右金額を支出した(但し、この損害については、被告板急に対し主張しない。)

(五) 損害の填補 金一六〇万円

被告岩城は、本件事故につき、被告板急と被告柏谷とが加入していた自賠責保険から、それぞれ金八〇万円の支払を受けた。

(六) 弁護士費用 金三〇万円

被告岩城は、本訴追行を同被告の訴訟代理人に委任し、弁護士費用として金三〇万円の支払を約した。

4  よつて、被告岩城は、被告柏谷、同板急、同妻倉に対し、連帯して金一一二五万四一六五円及び弁護士費用を除いた内金一〇九五万四一六五円に対する本件事故発生の日である昭和五〇年一一月二〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告柏谷の請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)ないし(三)の事実は認める。

(二)  同1(四)のうち、岩城車、妻倉車、柏谷車の進行方向は認め、柏谷車が中央線を越え対向車線に飛び出したとの事実は否認する。

(三)  同1(五)のうち、被告岩城の傷病の事実、(1)、(2)の入院期間は認め、(2)ないし(4)の通院は不知。

2  同2(二)の主張は争う。本件事故について、被告柏谷に過失はない。

すなわち、本件事故現場に差しかかつた際、岩城車は、前車である大型パネル車の後方を約二〇メートルの車間距離をおいて、時速約五〇キロメートルの速度で追従進行しており、反対方向からは妻倉車が進行して来て、すれちがおうとしていたのであるが、岩城車は、妻倉車の前方約三六メートルの地点で道路中央線を右側(妻倉車の車線)に約五〇センチメートル侵入して進行し、結局、道路中央線から右側に約三〇センチメートルの地点で、岩城車の右前端側面部を妻倉車の右前バックミラー付近に接触させ、さらに岩城車の右後側部付近を妻倉車の右後側部付近に接触させた。

その後、岩城車は、そのまま進行をつづけ、妻倉車の後方五二メートルを追従進行していた柏谷車の前方約二〇・七メートルの地点から再び道路中央線を右側に侵入して、柏谷車の車線に右斜めに進行したので、被告柏谷は、これを避けようとして自車進行方向左に転把して制動措置をとつたが、結局岩城車進行方向の道路中央線から右側に約一・六五メートルの地点で、岩城車がその右前部を柏谷車の前部に衝突させたものであつて、本件事故は、被告岩誠の一方的過失によつて発生したものである。

3(一)  同3(一)(1)のうち、(イ)の事実は認め、(ロ)ないし(ニ)の事実は、不知。同3(一)(2)、(4)の事実は不知、(3)の事実は認める。

(二)  同3(二)の事実は不知。

(三)  同3(三)の主張は争う。

(四)  同3(四)の事実は不知。

(五)  同3(五)の事実は認める。

(六)  同3(六)のうち、委任関係は認め、その余の事実は不知。

4  同4の主張は争う。

三  被告板急の請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は不知ないし争う。

2  同2(三)のうち、被告板急が妻倉車を所有していたことは認め、その余の主張は争う。

3  同3の主張は争う。

4  同4の主張は争う。

四  被告妻倉の請求原因に対する認否

1  請求原因1(一)ないし(三)の事実は認め、(四)の主張は争い、(五)の事実は不知。

2  同2(一)の事実は否認する。

本件事故は、被告岩城において、道路中心部に中央線(黄線)の標示があり、全幅員五・六メートルと狭隘な道路である本件事故現場を運転走行するに際し、当時反対方向から対向進行してくる車両が少なくとも三台あつたのであるから、進路の前方左右を注視し、進路の安全を確認しつつ道路左側部分を適性に保持して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つて、自車が道路右側部分にはみ出して進行しているのに気づかないまま漫然進行した過失により、折から対向進行してきた妻倉車の右前端側面部に自車の右前端側面部付近を接触させたものであり、被告妻倉には何ら過失はない。

3  同3の事実は不知。

4  同4の主張は争う。

五  被告板急の抗弁

(自賠法第三条但書の免責)

1 本件事故は、被告岩城の過失に基づくものである。

2 被告妻倉には何らの過失はなく、被告妻倉及び被告板急は、妻倉車の運行に関し何ら注意義務を怠らなかつた。

3 妻倉車には、構造上の欠陥又は機能の障害はなかつた。

六  被告岩城の抗弁に対する認否

抗弁事実は争う。

第四証拠[略]

理由

第一甲事件について

一  請求原因1(一)ないし(四)の事実、同2のうち、被告岩城が本件事故当時岩城車を所有し、自己のため運行の用に供していた事実は、当事者間に争いがない。

また、成立に争いのない甲第一、第二号証に弁論の全趣旨を総合すれば、原告寺前は、本件事故により、頸椎鞭打ち損傷等の傷害を負い、このため森町国民健康保険病院に昭和五〇年一一月二〇日から同月二六日までの七日間入院し、また渋谷整骨院に同年一二月二日から昭和五一年三月二五日まで一一五日間入院し、同月二六日から同年五月三一日までの六七日間同院に通院加療(内治療実日数三六日)を受けたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで、被告岩城の抗弁1について検討する。

1  弁論の全趣旨によりその成立の認められる乙第三、第四号証、原本の存在及びその成立に争いのない(乙事件当事者間においては弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立を認める。)乙第五号証、第七ないし第九号証の各記載中には、被告岩城主張の抗弁1(一)の事実(乙事件請求原因1(四)の事実)にそう、同人の供述記載部分等があるが、右は後記2掲記の各証拠に照し、措信し難く、他に同被告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

2  かえつて、前示乙第七ないし第九号証(但し、後記措信しない部分を除く。)、成立に争いのない(乙事件当事者間においては弁論の全趣旨によりその成立を認める。)甲第一三ないし第一九号証、第二〇号証の一、二、被告岩城主張の本件事故現場、岩城車及び柏谷車の写真であることに争いがなく、弁論の全趣旨により同被告主張のころ撮影されたものと認められる(乙事件当事者間においては弁論の全趣旨により、被告岩城主張の写真であることを認める。)乙第二一号証の一ないし八、弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立の認められる(乙事件被告岩城と被告柏谷間においては原本の存在及びその成立に争いがなく、その他の乙事件当事者間においては弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立を認める。)丙第一ないし第六号証によれば、本件は事故現場の状況、事故の態様等について、次の事実を認めることができ、右認定に反する前示乙第三ないし第五号証、第七ないし第九号証の各記載部分は、前記証拠に照して措信できない。

(一) 本件事故現場は、全幅員五・六メートルの二車線(片側一車線)の国道五号線上で、路面は平坦でアスファルト舗装が施され、路面中心部に中央線(黄線)のある道路で、南東(森町方向)から北西(八雲町方向)に通じ、北西に極めて緩いカーブとなつている。道路の北東側は海に面し、南西側は山岳部となり、街路灯などの照明器具は設置されておらず、夜間は暗い。

(二) 岩城車は、単幅一・六九メートル、車長四・六九メートル、車高一・九九メートルの二トン積車両で、当時延縄一八〇枚を積載しており、柏谷車は、車幅二・一五メートル、車長七・一メートル、車高二・二メートルの四トン積車両で、当時馬鈴薯三〇〇俵を積載しており、妻倉車は、車幅二・四九メートル、車長一一・三五メートル、車高二・九五メートルの一二トン積車両で、当時ウイスキーの原酒一二トンを積載していた。

(三) 被告岩城は、本件事故現場付近を森町方面から八雲町方面に向け、山側の車線(以下「山側車線」という。)を大型パネル車に追従し、同車と約二五メートルの車間距離を置き、時速約五〇キロメートルで岩城車を運転進行していたが、自車を次第に中央線に寄せ、折から八雲方面から森町方面に向け海側の対向車線(以下「海側車線」という。)を中央線にはみ出すことなく時速約四二、三キロメートルで進行してきた妻倉車の前方約三六メートルの地点で、岩城車を中央線から約五〇センチメートル海側車線にはみ出させ、そのまま回避措置をとることなく、中央線をまたぐようにして約二一メートル進行し、海側車線内を進行してきた妻倉車とすれ違つた際、岩城車は中央線から約二〇センチメートル海側車線にはみ出していたことから、岩城車の右前端側面部付近を妻倉車の右前端側面部に接触させ、続いて自車の右後側部付近を妻倉車の右後側部付近に接触させた。この後側部付近の接触による衝撃で、岩城車は右斜め前方に回頭し、海側車線内へ向け、右斜め前方に斜走した。

(四) 他方、海側車線のほぼ中央を妻倉車と約五〇メートルの車間距離を保つて時速約四〇キロメートルで追従進行していた柏谷車は、前記接触により斜走してきた岩城車が自車前方約二〇メートル付近で中央線を越え海側車線内に進行してくるのを認め、同車との衝突を避けようとして左側のガードレール側に転把するとともに、制動措置を講じたが、間に合わず、中央線から一・六五メートルの海側車線内において、柏谷車の前部に岩城車の左前部が衝突した。

3  右2の認定事実によれば、本件事故原因は、被告岩城が道路左側部分を適正に保持して進行すべき注意義務を怠り、岩城車が道路右側部分(海側車線)にはみ出しているのに気づかないまま漫然と同車を進行させた過失によるものであつて、被告岩城の抗弁1は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

4  以上によれば、被告岩城は、岩城車の運行供用者として自賠法三条に基づき本件事故によつて原告寺前が蒙つた損害を賠償する責任がある。

三  損害

1  治療関係費 金一二万一〇〇〇円

(一) 付添看護料 金六万円

前記のとおり、原告寺前は本件事故により一二二日間入院したことが認められ、また前示甲第一号証には、渋谷整骨院に入院していた一一五日間について付添看護を要した旨の柔道整復師による診断記載があるが、原告寺前の受傷内容は頸椎鞭打ち損傷等であつて、右受傷の程度に照し、本件事故による損害として是認できる付添看護必要日数は三〇日間が相当である。そして家族の付添費としては、一日当り二〇〇〇円が相当である。

(二) 入院諸雑費 金六万一〇〇〇円

右入院中の諸雑費は、一日当り五〇〇円が相当である。

2  休業損害 金四八万九〇〇〇円

弁論の全趣旨によりその成立の認められる甲第三ないし第一二号証に弁論の全趣旨を総合すれば、原告寺前は、本件事故当時、六〇歳で、青果物卸売商を営んでいたものであつて、相当程度の収入を得ていたことが認められ、また「賃金センサス」昭和五〇年第一巻第一表全産業計、企業規模計の六〇歳以上の男子労働者の現金給与月額が一二万五三〇〇円であることは公知の事実であり、原告寺前において、当時の純収入が一日当り三〇〇〇円であつた旨主張していた経緯に照し、少なくとも一日当り三〇〇〇円以上の営業利益をあげていたことが推認されるが、右以上の収入を原告寺前が得ていたことを認めるに足りる証拠はない。

ところで、原告寺前は、一九四日間本件事故によつて休業を余儀なくされた旨主張するが、事故当日である昭和五〇年一一月二〇日から渋谷整骨院を退院する昭和五一年三月二五日までの一二七日間及び通院治療実日数三六日間の合計一六三日については、原告寺前において休業し、あるいは就業が困難であつたものと推認しうるが、その余の三一日間についても休業を余儀なくされたことを認めるに足りる証拠はない。

従つて、一六三日分の休業損害は、四八万九〇〇〇円となる。

3  慰謝料 金六〇万円

原告寺前が本件事故により受けた精神的苦痛を慰謝するには金六〇万円をもつて相当と認める。

四  被告岩城の抗弁2について検討する。

本件事故態様は、前記二2で認定したとおりであつて、本件事故原因は、被告岩城の前記過失に基づくものと認められる。

なるほど妻倉車と柏谷車との間には約五〇メートルの車間距離があつたことが認められるが、本件事故は、柏谷車が先行の妻倉車に追突したというものではなく、山側車線から海側車線に斜走してきた岩城車が海側車線内で追突したものであり、前記二2(三)、(四)で認定した柏谷車と岩城車の速度、位置関係、被告柏谷がとつた措置等に照して、被告柏谷に被告岩城主張の過失は認められず、従つて、同被告の抗弁2も理由がない。

五  以上によれば、原告寺前の被告岩城に対する本訴請求は、同被告に対し、金一二一万円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五〇年一一月二〇日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分につき理由があるので右限度でこれを認容し、その余の部分は理由がないのでこれを棄却すべきものである。

第二乙事件について

一  請求原因1(一)ないし(三)の事実は、被告岩城と被告柏谷及び被告妻倉間においていずれも争いがなく、被告岩城と被告板急との間においては、前示甲第一三ないし第一九号証、乙第三ないし第五号証、第七ないし第九号証によつてこれを認める。

同1(四)の事故態様については、前記第一の二1で説示のとおり、被告岩城主張の事故態様にそう乙第三ないし第五号証、第七ないし第九号証の各記載部分は、いずれも措信できず、他に被告岩城の主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて前記第一の二2で認定の事故態様等を認めることができる。

二  そこで、各被告らの責任について検討する。

1  被告妻倉の責任の有無について

右認定の本件事故態様に照せば、本件事故は、被告岩城が道路左側部分を適正に保持して進行すべき注意義務を怠り、岩城車が道路右側部分(海側車線)にはみ出しているのに気がつかないまま漫然と同車を進行させた過失によるものであつて、被告妻倉に左側部分の通行遵守義務を怠つた過失は認められない。

なお、前示丙第四号証によれば、被告妻倉は、前方約三六メートルの地点に岩城車が中心線から海側車線に約五〇センチメートルはみ出して進行してくるのを認め、軽く左に転把していることが認められるが、前記岩城車、妻倉車の速度、位置関係等に照して、被告妻倉に岩城車との接触事故を回避するための注意義務違反があつたとは認められない。

2  被告柏谷の責任の有無について

前記第一の四で説示のとおり、被告岩城主張の被告柏谷の過失は認められない。

3  被告板急の責任の有無について

(一) 被告板急が妻倉車を所有していたことは当事者間に争いがない。

そこで、被告板急の抗弁について検討するに、右1に説示のとおり、本件事故は被告岩城の過失に基づくものであつて、被告妻倉には過失はなく、妻倉車の運行に関して注意義務を怠らなかつたことが認められ、また前示丙第一、第四号証によれば、妻倉庫には本件事故に関係する構造上の欠陥又は機能の傷害はなかつたことが認められる(なお、右丙号証によれば、妻倉車のエンジンの調子が良好ではなく、速度があまり出なかつたことが認められるものの、右エンジンの不調は本件事故と何ら関係が認められない。)。

右事実によれば、被告板急の抗弁は理由がある。

(二) 被告板急の使用者責任については、前示のとおり、被用者である被告妻倉に過失が認められないので理由がない。

三  以上によれば、被告妻倉、同柏谷、同板急のいずれについても被告岩城主張の賠償責任は認められず、被告岩城の右被告三名に対する本訴各請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がなく、失当として棄却を免れない。

第三結論

よつて、原告寺前の本訴請求中、被告岩城に対し、金一二一万円及びこれに対する昭和五〇年一一月二〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払を求める部分につき認容し、その余の部分は棄却し、被告岩城の被告妻倉、同柏谷、同板急に対する本訴各請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 長濱忠次 富川照雄 桐ケ谷敬三)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例